June 2006

June 07, 2006

watch!


きのう腕時計を買った。
なんばパークスの「TiCTAC」で、文字盤の茶色い渋かわいいヤツ。

実は高校生のときから腕時計を嵌めるのが嫌いで、
今に至るまでケータイを時計代わりにしていた。
時間を見る度に手を後ろに回してズボンの尻ポケットから出す。
それで十分事足りると思っていたけど、
やはり社会人として腕時計を嵌めているか否かは、
その人がパンクチュアルか否かを表現しているんじゃないだろうか。
なんて、今さらになって気付いたり。

また、人の9割は第一印象で決まるというけれど、
チラリと袖口から顔を覗かせる腕時計は、
第一印象を覆すほど強烈なインパクトを与え得るだけのパワーがある。
頼りない人間に見えていたのに、センスの高い腕時計がチラ見えしただけで、
「え!この人って…!?」
ということがたまにある。

もちろん持ってる本人が好きになれるのも大事。
持ってるだけで嬉しくなる時計。
ローンを覚悟で探していたのだけれど、
そんな時計が驚くほど手頃な値段で見付かった。
しょせん私なんかその程度の人間ってことか・・・


タイで買ったドラえもんの腕時計は、インドで好評を博した。
電話屋の前で、食堂で、列車で、大人が私の(腕時計の)周りに集まっては
なんとか競り落そうと躍起になった(売らないと言ってるのに)。

バラナシからカルカッタに戻って来た日の夜、
私は韓国人のパクだった。
人ごみの非道いニューマーケット周辺では、「ヘイ、ジャパーニー。」と
フレンドリーに声をかけては、店に連れ込もうと強引に勧誘したり、
騙そうと企んだりする輩が多い。
鬱憤の溜まった私は、ジャパーニーと声をかけた男に言った。
 「アイムコリアン!」
 「マイネームイズ“パク”!」
 「ネバーコールミー“ジャパーニー”!!」
そう言ったところで返って来る言葉は、
 「オー、コリアン……こ、コニチハ。」
ていどのものなのだから、あまり効果はなかったのかもしれないけど。

チョウロンギ通りから自称ムンバイ出身の青年にしつこくつきまとわれてた時も、
私はパクだった。
お土産を買いに行かないか、とか、チャイをご馳走するよ、とか、
どれだけ「ノー!」と言っても離れてくれなかった。
 「コリアはコリアでも、“北”かい?それとも“南”?」
 「もちろん“南”だ。」
と答えたところで、突然横から口を挟まれた。
 「ヘイ、ジャパーニー!ぼくを憶えてるか?」
その男は、インドに着いた初日に私を騙そうと怪しげな店に連れて行った片割れの、
自称ダッカ出身の青年だった。
 「あの翌日、ぼくはキミのホテルの前で待ってたんだ。朝の7時に。なのにキミはもうチェックアウトした後だった。なぜだ?」
 「ごめん。実を言うと、キミの横にいた日本語を話す男がイヤだったんだ。」
 「なぜ?」
 「良い人間には見えない。」
 「…いいカンしてるね。」
さっきまで付きまとっていたムンバイ出身の青年は、いつの間にか消えていた。
 「それから、あの朝ぼくにチャイを驕ってくれる約束だったぜ。」
 「うん、憶えてるよ。じゃ今から行こう。いい店知ってる?」
彼は粗末というか簡素な店に私を案内し、チャイを注文した。
煮出した紅茶の濃厚な香りと渋みが、甘いミルクと相まって気持ちを和ませてくれる。
青年は聞いてきた。
 「たしか、明日ニッポンに帰るんだよね?」
インド初日、性格の良さが顔に表れている彼を信用して、
私は自分の予定をぜんぶ彼に教えたのだった。
 「ニッポンもいま暑いのかい?」
 「いや、日本の5月は暑くもなく寒くもなく、いちばん過ごしやすい季節だよ。」
 「ニッポンでは1ヶ月にどれぐらいのサラリーを貰えるの?」
 「ニッポンでは・・・」
 「ニッポンでは・・・」
そのチャイ屋で、彼はニッポンについて矢継ぎ早に色々なことを尋ねてきた。
インドと日本、近いようで遠い。
東南アジア諸国は日本との関係が濃いものの、インドまで来ると途端に希薄に感じるのは、
インドではトヨタの自動車をあまり見ないからかもしれない。
最後に彼は、恥じらいながら言った。
 「何かニッポンのものをくれないか?」
何かと言われても、日本のお金はホテルに置いてきたし…、と少し悩んだ後、
バンコクで買ったドラえもんの腕時計をあげることにした。
 「これなんかどう?」
と差し出すと、彼は不思議そうに文字盤のドラえもんを見詰め、えらく喜んでくれた。
別れ際、私と彼は握手をした。
温かい手だった。
彼は本当にダッカ出身だったのか、彼はドラえもんを知っているのか、
今となっては分からない。
ただ一つ言えるのは、彼は本当は良いヤツだったんだ。

…なんて信じたい私は、やっぱり甘いんでしょーか?

(今日の写真:足影フェチ at どこかの駅/バンコク)

060602

scott_street63 at 23:07|PermalinkComments(0)TrackBack(0)  | インド