August 2006

August 18, 2006

Nostalgic Journey


この盆休み、またルアンパバーンへ行ってきました。母を連れて。
母が一人でも行くと言い出したものの、やはり心配なので、
急遽たまったマイルを特典航空券に交換して。

ルアンパバーンは観光客が年々増加の一途を辿っているらしく、
雨後の筍のように其処此処で新しいゲストハウスやホテルが建てられている。
小さな街だから、観光客が現地人と同じぐらいいるんじゃないかと思わされるほど。
以前は無かったナイトマーケットも然り、
クレジットカードavailableな洒落たショップも然り。
夜になるとレストランから流れる音楽が騒々しく、
来年辺りはクラブハウスまで出現するんじゃないかと心配になる。

「何も無い」のが魅力だったラオス。
貧しい民が外貨を稼ぐ機会が増えたと考えれば嬉しくも思うが、
個人的な感傷としては、また一つ帰るべき場所を失った寂しさは否めない。

旅とは所詮、原風景への憧憬なのかもしれない。
自己の感情を昂ぶらせる未知なる何かを求めているつもりでも、
結局辿り着くのはいつか何処かで見た風景なのではないだろうか。
…私だけ?

幼少の頃より常に私の中に根付いている景色がある。
祖父母の住んでいた家から少し歩くと、見渡す限り田圃が拡がっていた。
正月や盆に親戚一同が祖父母宅に集まるのが慣わしだったが、
私は夕食の始まる時間まで一人で広い田圃の真ん中を散歩したものだった。
とりわけ正月の朝の田圃は、どんよりと雪雲の垂れ込む一面の空の下、
だだっ広い空間に誰一人通らず、
世界には自分一人しかいないのかと錯覚させるほど静寂に満たされていた。
その田圃を歩いていた時のことを思い出すと、甘く切ない気持ちに襲われる。
あの静かで穏やかな時間が私には何よりも幸福だった。

来年の正月にスペインに行きたいと妻から言われた。
某航空会社の特別レートで、通常50万円以上する運賃が、
一月一日からの出発だと8万円弱で往復できるのだ。
地中海に面する白く慎ましい町・ミハスで静かに時を過ごしたいという。
山肌に咲く白い小さな町。
教会の裏のミラドールから眺めるコスタ・デル・ソル。
地中海の上に拡がる青い空。
穏やかな気候のもと絶景を眺めながら、
町中のバルで買ってきた絞りたてのオレンジジュースとサンドウィッチで
遅いブランチ。

……いいかもしれない。
確かにそれもいいだろう。
それもいいと思う反面、私には全く逆の計画がある。

正月は中国四川省にある夏河(Xia He)に行きたい。
チベット族が8割を占める小さな街。
日本から北京あるいは広州で国内線に乗り換え蘭州へ。
蘭州からバスで約7時間。
冬の平均気温はマイナス8度。
写真で見る限りはどうやら盆地にできた町らしく、
周囲の山には樹木が生えておらず地肌が晒されている。
何があるのかと言えば、チベット仏教の寺が一つあるだけで、
他は大して何も無い。
しかし私は期待している。
雪雲が低く垂れ込む静寂がそこにはあるんじゃないかと。
寒さに堪えながら、何もない乾いた山肌を踏みしめたい。

ノスタルジーが産み出すものは何だろうか。
ノスタルジーとは、人を怠惰に後退させる甘い毒なんじゃないだろうか。

判ってる。
判ってるんです。
でも、正直ホント、心身ともに疲れてるんで、
甘んじる私を許してください。


(今日の写真:睨む竜 at ルアンパバーン/ラオス)

060818

scott_street63 at 23:57|PermalinkComments(9)TrackBack(0)  | ラオス