October 2007

October 30, 2007

The Road.


妻は言う、「意志在る所に道は開ける」と。
しかし私は思う。
その道の先に何があるというのか。

人は皆オギャーと生まれたその瞬間から死への旅路を一途に歩む。
死が不可避である真実を知識として持ち合わせながら、それでも人は懸命に生きる。
愚かな現実逃避だろうか?
その生に意味はあるのだろうか?
たとえ行き着く先が死であろうとも、何人たりともその光景を見て持ち帰った者はいない。
人は道の先に在る光景を見んとして、知らず生きているのではないだろうか。
見えざる明日を希望として歩を前に進める。
道が続く限り人はその旅に希望を抱き続けられるのかもしれない。
生への希望の前では、死への絶望など儚く弱い。


午前7時、バスターミナルとは名ばかりの原っぱにマイクロバスやトラックが集結する。
せき寂の町ルアンナムターも、この時ばかりは活気を帯びる。
バスターミナルの前の市場は人で賑わい、売る者も買う者も声を張り上げる。
バスターミナルでは運転手が行き先を大声で告げまわって客を集めている。
私は朝食にオレンジジュースと水、そして香ばしいフランスパンの練乳サンドを市場で買ってモンラー行きの国際バスに乗り込んだ。

モンラーは中国雲南省の南端にある西双版納(シーシャンバンナ)タイ族自治州の一都市。
ラオス北部から中国へと抜ける旅路。
陸路で国境を越える―――今までの旅で国境を越えるなど一度や二度ならず経験しているが、海に囲まれた日本人としては、何度経験しても期待に胸を高鳴らせずにはいられない。
島国と違い、道は国境を越えて何処までも続く。
大陸で生まれ育った人間のスケールの大きさを思い知らされる。

ルアンナムターを出たバスは町を出ると水田に挟まれた道を東へと真っ直ぐに突き抜け、途中の三叉路を北に折れて山道を上った。
中国のODAによるものなのか、山間を走る道路は意外にもしっかりと舗装されており、バスターミナルを出て小一時間で我々は出国ポイントであるボーテンに難なく到着した。

バスの乗客は皆いちど降り、各々パスポートを持って道の脇にある事務所へ出国手続きを受ける。
少し離れた所に、山深い景観を全く度外視したパステルカラーのマンション風の建物が2棟建っていた。
余りの趣味の悪さに目を離さずにいられない。

全員が揃ったところでバスはどちらの国にも属さないグリーンベルトを走る。
その間にもパステルカラーの不自然な建物は其処此処に見受けられ、それは中国の入国ポイントであるモーハンで極められた。
もはやそこは浦安にあるネズミの王国であるかのようなお伽の国。
「白雪姫」の7人の小人よろしく、ピンクや水色にペイントされた店から両替商が出て来て旅人を取り囲む。
赤貧の国ラオスとの貧富の差を見せつけ国威を表現しようとの魂胆なのか、異様な光景に目眩を覚えずにいられない。

入国を済ませ、再びバスに乗ってモンラーを目指す。
モーハンを越えるともう人工的な色の建物は現れない。
山間の細い道の脇に所々、瓦屋根の古い家屋とのどかな日常が見受けられた。
慎ましい暮らしぶりに心洗われるのも束の間、バスはラオスよりも酷い凹凸の激しい砂利道にぶつかった。
外を見ると、建設中の大きな道路をまさに横切ろうとしているのであった。
バスの走る山道は何度も蛇行してはしばしばこの道路に差し掛かり、その度に我々は悪路を強いられた。
つまりこの建設中の道は、自然の地形などいっさい無視し、山を削り谷を埋め、ひたすら直進しているのだ。
この道こそは深センから雲南省、ラオスを突き抜けバンコクへと繋がる「南北回廊」と呼ばれる国際道路。
日本の高速道路ならなるべく地形に沿って建設するところを、この国は労働力の数に物を言わせ、どれだけ手間がかかろうともとにかく真っ直ぐな道を作ろうとしているのだ。
これも偏に国威のためなのか。

同時に、日本のODAにより中国、ベトナム、ラオス、バンコクへと貫く「東西回廊」も建設されつつある。
これらの道が完成した暁には、物や人の移動するスピードは極端に加速する。
その結果として、数百年のうちに中国は、日本が太平洋戦争で成し得なかった大東亜共栄圏を作り上げようとしているのではないだろうか。

さらに中国は西方政策としてインドや中央アジア諸国へと繋がる西部にも道路を建設中である。
それが完成すれば、いずれは欧州にまで達する完全舗装のシルクロードとなる。
かつて西洋では全ての道はローマに通ずと謳われたが、近い将来、全ての道が北京に通ずるに違いない。
その規模はローマ帝国など比ではない、文字通り世界の全ての道である。
世界の至る所に移住しチャイナタウンを作り上げてきた華僑は国際道路によって結ばれ、いずれは中国人、もとい漢民族によって世界が統一されることもあり得るかもしれない。

日本人である我々にはただ指を咥えて傍観するしか術はないのか。
はやる気持ちに衝動を禁じえない。


(今日の写真:ラオスの国境。1キロ先に中国の国境。その間はグリーンベルト。at ボーテン/ラオス)

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071025

scott_street63 at 02:16|PermalinkComments(4)TrackBack(0) | ラオス