January 2008

January 21, 2008

2,000年前の記憶


ウィスキーの味はバーテンダーによって変わる。
先日、兄の行きつけのバーに連れて行ってもらった。
法善寺横丁にあるバー『タロー』。
10人も入れば満員になるカウンターオンリーの小さなバー。
『シャヴィ』のマスターはオン・ザ・ロックの味を、氷との交わり具合で決まると言う。
刻一刻とウィスキーの中へと溶け出し交わり合う変化を楽しむ甘美なウィスキー。
『タロー』のマスターは違う。
私の父と年齢の近いマスターが淹れるオン・ザ・ロックは、一見武骨とも取れるのだが、
そのストレートな力強い味に歴史と風格を感じさせる。
ひと口堪能し、グラスの横に添えられたチェイサーを口に含むと、捉え切れなかったウィスキーの味と香りがふわりと優しく蘇って脳裏に拡がる。
それはまるで甘美な思い出に耽るように、記憶という白い花が頭の中で花弁を広げたような衝撃。
チェイサーで二度味わうオン・ザ・ロック。
旅の帰りに決まって飲むミルクティーを思い出させる。

私の旅は大抵バンコクを経由する。
ラオス、ベトナム、ミャンマー、インド… ケアンズやスペインでさえタイを経由した。
そして帰りは決まって23時59分バンコク発大阪行きのTG-672便。
旅を終え日常へと戻る、今日から明日を行くフライト。
ボーディングまでの時間を、滑走路の見渡せるカフェ&バーの窓際の席で
ミルクティーの甘い香りに癒されながら、旅の間に付けた日記を読み返したり、
日記に書き切れなかった思い出に耽ったりして過ごす。
それぞれの国に向けて離陸する飛行機や着陸した飛行機の滑走路を走るその様が、
耽る想いを加速させる。


午前8時にルアンナムターを発ったバスは、6時間に及ぶ旅の末、孟腊(モンラー)に到着した。
ラオスと中国の間には1時間の時差があるため、時計の針を戻して午後1時とする。
車内で偶然にも私と同じく景洪(ジンホン)まで行くという日本人旅行者と知り合った。
彼は景洪からさらに大理(ダーリー)まで行くと言う。
とりあえず腹が減ったので、二人でバスターミナルを出て飯屋を探すことにした。

西双版納タイ族自治州の一都市である孟腊は、雲南省の山間にあって意外にも開けた街だった。
街中の道路はアスファルトで舗装され、目抜き通りには幾つもアーチが掛けられており、中国に入国して以来バスの中から垣間見てきた田舎町とは明らかに違う活況ぶりが窺えた。

二人して大きなバックパックを背負いながら目抜き通りを300メートルほど歩き、
一店の小さな飯屋の軒をくぐった。
円卓に座りメニューをもらうと、なんとも懐かしい見慣れた料理名が並んでいた。
青椒肉絲、麻婆豆腐、回鍋肉、炒飯などなど…
料理を4品と白飯を注文した。
久しぶりに茶碗に盛られた白飯を箸で食べることが出来、ただそれだけで感動した。
料理の味もやはり日本で食べたことのある中華料理とまるで変わらず、故郷に近付いたことを否が応でも実感でき、美味い、美味いとがっついた。

同じく店内で食事をしている家族らしき一組を見て私が、
 「タイ族自治州って言っても、あんまり顔が濃くないというか、どっちか言えば日本人に似てる人が多いね。」
と、なんとなく思ったことを口にすると、大学院生の彼は答えてくれた。
 「一説ではタイ族っていうのは中国が三国時代だったときの呉に住んでた民族らしいんです。でも北にあった魏に負けて南方に逃げて、マレー半島にまで下ったことでクメール人との混血が多く生まれて顔が濃くなったんだと思います。あと一部は海に逃げて台湾や日本にまで行ったんだそうです。」
それを聞いて私は驚いた。
タイ人と日本人が同じルーツを持っているとは考え難かったが、私自身がよくタイで現地人に間違えられて道を訊かれることを思い出し、もしかしたら自分はその末裔なのか?と尋ねてみると、
 「かもしれませんね。」
と彼は笑って答えた。

ほんの一時の旅の記憶は時間とともに薄れて行くものだが、脳ではなく身体に、あるいは遺伝子にまで刻まれた記憶というものが人間にはあるのではないだろうか。

空腹を満たした私らは今度は景洪行きのバスに乗った。
孟腊から約4時間、バスの走る道はやがてメコン川に交わる。
版納(バンナー)大橋を渡ってメコンを越えると景洪市内に入る。
インドでガンガーを見ても感動しなかった私だが、10年前にチョンメックで見たメコンに衝撃を受け、旅を始めるきっかけとなった。
今はそのチョンメックからはるか上流でメコンと対峙している。
約2千年前、もしかすると私はこの川沿いに住んでいたのかもしれない。
景洪で再会したメコンの悠久の流れを眼前にして、高揚する気持ちは抑え難かった。


(今日の写真:孟腊で食べた昼ごはん at 孟腊/中国)

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scott_street63 at 02:48|PermalinkComments(0)TrackBack(0) | 中国