September 2009

September 23, 2009

Incredible India.


人、人、人…
車、車、自転車、時に牛…
頭頂を刺す様に照り付ける太陽の下で無機物と有機物が衝突を繰り返す。
舞い上がる砂煙や排気ガスに喉が痛む。
ニューデリー駅へ向かう一本道のバザールでは度々人とぶつかり、
その度に汗に濡れた腕の感触を覚えて不快な気持ちに襲われた。

明後日のアーグラー行きの乗車券を求めてニューデリー駅に入ると
駅のスタッフだと語る男が話し掛けて来た。
 「チケットは持ってるのか?」
 「持っていない。買いに来たんだ。」
 「今日の鉄道か?」
 「いや、明後日だ。」
すると男は当日券売り場ではなく予約券売り場へと私らを案内した。
が、窓口は全て閉ざされていた。
 「もう今日の営業は終了した。今から紹介する旅行会社なら席を予め抑えているからそこへ行くと良い。」
と言うと私の手首を掴んで外へ引っ張って行き、オートリクシャーを呼んだ。
 「最寄りの旅行会社まで10ルピーで行ける。ふつう外国人だと多くを請求するが、オレの顔があるから大丈夫だ。」
そう言ってリクシャーの運転手と話そうとする彼の肩を私は叩いた。
 「悪いけどアンタの言うことは信用できない。また明日来ることにする。」
 「明日はムスリムのお祭りだから駅は休業だ。」
鉄道は休みなく動くのに駅が休むなんて事がある筈がない。
 「何故アンタは駅員の制服を着ていないんだ?」
 「今日は日曜だからいいんだ。」
そんな駅員は見たことがない。
 「オレは嘘をついてない。なんだったら他の誰かに聞いてくれたって構わない。明日が休みなんて事は皆知っている。」
必死にそう言って通りすがりの誰かを呼び止める彼を無視し、急ぎ足で駅の外へと向かう。
しつこく追い掛けて来た彼は私の腕を掴んだ。
彼の掌から伝わる妙に熱い体温に不快感もピークに達した。
 「おれに触るな!」
一喝して手を振り解いて外へ出、疲労と不快感を顔に現した妻の背を押し駅前の車道を渡った。
もう一度駅へ行くべきか、それとも旅行会社を通した方がいいのかと思案していると、恰幅の良い紳士然とした男が話し掛けて来た。
 「鉄道の切符がほしいのか?」
 「そうだ。」
 「良い旅行会社を紹介しよう。ここからリクシャーで10ルピーで行ける。」

地球は度重なる衝突の末にあるべき姿へと生み出されたと言うが、
ここインドでは、何度衝突を繰り返そうとも永遠にカオスなのに違いない。

scott_street63 at 02:20|PermalinkComments(2)TrackBack(0) | インド

訪印の途


午前10時15分ニューデリー空港に降り立つ。
到着ゲートを出ると、肌の黒いインド人たちが今にも柵を乗り越えかねない勢いで大声で待ち人の名前を呼びながらプラカードを競うように突き出して来る。
勿論送迎を頼んでいない我々には関係がない。
プリペイドタクシーのブースでチケットを求めた。
 「Karol BaghのMandakini Palace Hotelまで。」
愛想のない女性係員が機械的に紙に書いていく。
最後にRs.250-と書くと彼女は紙を差し出し、金額をボールペンの先で2度小突いて見せた。
到着ゲートの前の男達とは対称的な静かさ。
支払いを済ませ、紙を持ってタクシー乗り場へと向かう。
空港の施設を出ると、喧騒はさらに増した。
遠慮なく鳴らし続けるクラクション、負けじと張り上げる大声、其処此処で響くトランクを閉める音、物売りの声…
暑さは大阪の夏と比べれば耐えられないこともない。
しかしタクシーにエアコンなどという洒落たものはなく、乗っている内に汗が噴出し、服の中を流れ落ちては体力を奪って行く。

ホテルは予め日本で予約していた。
さすがにもうこの歳でゲストハウスは辛い。
一人旅ならまだしも、今回はいちおう夫婦水入らずなのだ。
ホテル検索のウェブサイトで実際に宿泊した人のレビューを見ながら選んだつもりだった。
直前の予約だから部屋は割り引かれ、6千円のところが2千5百円程度。
インドの物価を考慮すると、かなりまともなホテルの筈だった。

運転手は途中で何度か車を停めては近くの人間に道を尋ねた。
3回目に停まった時には、目の前の建物にKarol Baghと書かれていた。
しかしそこは貧困層とは言わないまでも、明らかに中の下程度の庶民の住宅街だった。
まさかこんな所では…と思っていると、タクシーは車をバックさせ、より細い道へと右折した。
ホテルはそんな奥まった辺鄙な所にあった。

半ば青醒めながらチェックインを済ませて部屋に通してもらうと、広い上に天井が高いことだけが取り柄といった極めて簡素な部屋だった。
wifiでインターネットが使えるものの、確かに不潔ではないものの、どこかピントを外していると言うべきか、なんだかなぁ…といった微妙なホテル。
まぁゲストハウスよりはマシだろうと考え、まずはシャワーを浴びてみた。
…湯の温度もビミョー。
明らかに冷水ではないが「湯」とも呼べない微妙さ加減。

インドの宿は質の割に高い。
今後の教訓とする。

scott_street63 at 02:15|PermalinkComments(0)TrackBack(0) | インド

September 20, 2009

From Suvarnabum Air Port.


旅先から届く手紙に胸が熱くなる。
1枚の絵葉書は異国の地の風をその身に纏っている様でいて、
文面を読む度に遠く離れたその地の香りが脳裏に浮かぶ。

押入れを整理していると6枚の絵葉書が出て来た。
角は折れ曲がり、写真の所々に皺が寄った古い絵葉書―――父からの便りだった。
かつて父は立売堀(いたちぼり)にある貿易商社に勤めていた。
東南アジアを中心に営業していた父は出張の度に長く家を空け、よく幼少の私に絵葉書を送ったものだった。
その文面は、ちゃんと勉強しているかとか、母の言う事をちゃんと聞いているかとか、誕生日に家にいられず済まないなどといった日常的な事柄から始まり、その土地は日本の夏よりも暑くてスコールと呼ばれる大雨が1日に一度降るだとか、食べ物が全て辛くて敵わないだとか、人の肌が黒くて皆汗臭いだとか、当時の私には想像もつかない情報でもって風を吹かせてくれたものだった。
それらの手紙が今の私を作ったとは思わないが、何故だか旅の最中にふと思い出した。

これを書いている今はバンコク・スワンナプーム国際空港のカフェにいる。
早朝3時50分に着陸し、次は7時半のフライトでニュー・デリーへ向かう。
ボーディングは6時55分だから、実質約3時間の待ち時間。
タイ国際空港はシンガポールに次ぐ程の世界のハブ空港でもあるから、深夜・早朝に関わらず荷役が為され、飛行機が飛び立っては降り立ち、客がいる限り免税店や飲食店が24時間営業されている。
妻も免税店を巡ってフル活動中だ。

インドには呼ばれて行くものだと何処かで聞いた。
数年前、ホンコンのゲストハウスで知り合った女の子から絵葉書が届いた。
バラナシの博物館の絵葉書だった。
―――私はいまインドに来てます。
  この国はとても汚くてとても美しくて、最低で最高な国です。―――
この峻烈な風こそまさに呼び声。
この手紙が私への追い風となり、私の足をコルカタに降り立たせたのだと確信している。
コルカタで飲んだチャイの香り、慌しい雑踏、そしてバラナシの乾いた風に混じる牛糞の匂い…
思い出す度に胸を焦がす。
 「もう行く?」
買い物から帰って来た妻が聞いてきた。
彼女の呼び声に席を立つ。
あの風を求めて、今ふたたびインドへ―――。

scott_street63 at 16:53|PermalinkComments(0)TrackBack(0) | インド