January 2012

January 07, 2012

1/10 Century.


上空3万4千フィート。
絶え間なく響く轟音が大気を切り裂く音と共に室内を充たす。
隙間なく居並ぶ座席に余す所なく着席する乗客。
消灯した機内の一席で閉塞感に耐えながら8時間前の世界に遡る。
冬のスペイン。
マドリードから9日間をかけてコルドバ、ミハスの3都市を巡る。
前回マドリードに降り立ったのは2001年。
約10年ぶりの訪問となる。
十年一昔―――。
ルーティンの積み重ねの中に起こった様々な出来事も、一昔の内に括られて霞の中へ薄れ行く。
10年前に遡るには地球をあと何周逆に回れば良いのだろうか。
一万光年をかけて光を届ける銀河の如く、我々の放つ生命の光を10光年かけて映す星があるならば是が非でも訪れたい。
懐古に浸る暇など与えぬ様に地球は非情にも回り続ける。
目にも止まらぬスピードで。
轟音と共に。


2001年4月。
22時30分グラナダ発バルセロナ行き夜行バスで、一路バレンシアを目指す。
約9時間の旅路。
余裕を見て1時間前に到着した我々は、バスターミナル内のレストランで時間を潰すことにした。
暇の供にカフェ・コン・レチェ。
話に興じている間にバスは準備が出来ていたらしい、定刻5分前に搭乗すると、我々が最後の客となっていた。
空席は最後尾から2列目のみ。
照明を落とし静かに出発を待つ乗客らの間を縫って奥へと進む途中、黒髪の女性と目が合い、思わず「あ。」と互いに声を挙げた。
「こんばんは。」
と日本語で挨拶を交わす私を、パートナーは不審に見ていた。
同じ匂いというものだろうか、相棒が気付かなかったそれを私と彼女は敏感に気付き、すぐに意気投合した。

夜のグラナダを駆る。
我々と彼女は憚りながら声を潜めて、何処を回って来たのかなど旅の話で盛り上がった。
彼女は単身モロッコを周り、ジブラルタル海峡を渡ってスペインに入り、これからバルセロナを経由してパリを目指すと言う。
その逞しさに我々は感心するばかりだったが、彼女はスペイン語はおろか英語もろくに話せないらしく、会話は専らジェスチャーだと言うものだから、更に驚くほかなかった。

バスは市街を抜け、農地とも荒地とも付かない大地を走る。
何も見えない漆黒の地面が高低の差をつけてうねり、それに合わせて車体も前後に傾斜する。
車内は平穏に静まり、我々も一定の話題が尽きて、眠りに就こうと目を瞑ったり、イヤホンで音楽を聴いたりして静かに過ごした。
外の闇の中にぽつり、ぽつりと赤茶けた瓦屋根を乗せた白壁の家が見える。
住居なのか納屋なのか、見当も付かない。
時折り我々と同じようなバスがすれ違い、その都度運転手は右手を挙げた。
互いに見えているのかいないのか、あるいは条件反射のようなものだろうか。
夜空の下、全てが静寂の中で営まれる。
漆黒の大地の上に散りばめられた星々が鮮明に煌めく。
静かに寝息を立てて凭れかかる相棒を尻目に、一人眠りに就けず呆然と夜空を眺めて過ごした。

いつの間に眠っていたのか、運転手の声で我に返った。
「休憩。トイレに行きたい方は外のバルでどうぞ。」
バスはこんな時間でも煌々と光を洩らすバルの真正面で停まっていた。
乗客の殆どが外に出る。
私も出る際に「休憩は何分間ですか。」と尋ねると、「15分」と運転手は簡潔に答えた。
にも拘わらずバルのトイレには長い行列が出来、とても15分で終わるとは思えなかった。
男性側は比較的待ち時間が短かったため、私はなんとか時間内に席に戻った。
相棒はまだ並んでいる。
はやる気持ちと裏腹に運転手は一向に戻って来ない。
見てみると、運転手も乗客と一緒にテーブルを囲んで笑いながら飲み食いしているのだった。
15分という話は何処に行ったのか。

私はバルでチョコレートを買い、車内に戻って3人で分けた。
再び旅の話に花を咲かせる。
バスはまだまだ出そうになかった。


scott_street63 at 23:52|PermalinkComments(2)TrackBack(0) | スペイン