October 2015

October 19, 2015

Chicken Rice or Seafood Rice.


 「Chicken Rice or Seafood Rice ?」
隣りの夫婦は答えられず狼狽えた。
絶え間なく響く轟音、エコノミークラスの閉塞感、窮屈な座席。
前に座る乗客が無遠慮に背を倒す。
 「Checkin Rice or Seafood Rice ?」
豚に餌でも与えるように、客室乗務員はにこりとも笑みを見せない。
関西空港発、北京行きCA-162便。
日本発着の便には珍しく、日本人どころか片言の日本語を話す乗務員もいない。
勿論、機内アナウンスも中国語か英語しか流されない。
 「チキンライスかシーフードライスだそうですよ。」
乗客の過半数が中国人のため、おおかた私もその一人だと思っていたのであろう彼らは、私の助け船に顔を綻ばせた。
 「シーフード、プリーズ。」
乗務員は次に私に顔を向けた。
 「チーファン(鶏飯)。」
平静を装って私が放った片言の中国語は、どうやら通じたらしい。
メコン河上流を求めてチベット族が8割を占める町、雲南省・徳欽を目指す。


中国への個人旅行は、近距離な割に困難を極める。
上海や大連など沿岸地域ならまだしも、奥地へ行くと片言の英語すら通じない。
"Money" や "Water" 等の簡単な単語すら彼らは知らない。
たとえ中国語を話したつもりでも、発音次第ではいとも容易く「メイヨー(没有)」で済ませてしまう。
その上、相手は中国語が通じないと判っている筈なのに、平気で中国語で捲し立てる。
彼らの言語を解さないことが理解できないのか、或いは単に溜飲を下げるために喉まで出掛かった事柄を放っているだけなのか。
巻くし立てた後に相手の反応を待つ所を見ると、恐らくは前者なのだろう。
中国語を解さない人間などいない―――何処ぞの大国と酷似している。
東南アジアで英語で捲し立てる白人旅行者をしばしば見かける。
両国とも我こそは世界の中心であると勝手に自負する傾向が強く窺える。
厚顔無恥とは正にこの事。

とは言え、世界人口約70億人に対し、日本語は日本人約1億3千万人にしか使用されない程マイナーな言語であるにもかかわらず、シンガポール・チャンギ空港内の案内板には、タミル語・英語・中国語と並んで日本語が表示され、グアム空港
では「ようこそグアムへ」と縦書きの大きな垂れ幕が天井からぶら下がる。
韓国・台湾では日本語を話す店員も多い。
もはや経済的に大東亜共栄圏を構築しているかのような錯覚を覚える。
日本人にとっては便利なことだが、外国語を学ぶ必然性や危機感が薄れ、国際感覚を養う機会を益々逸する。
結果として、日本人は島国根性を更に育むことになる。
旅行の行先は日本語の通じる国に限定されるなど。
成る程、日本人の面の皮も十分厚い。

日本から雲南省・麗江までのツアーは多い。
麗江からバスを乗り継ぎ2日を掛けて徳欽まで向かう旅。
面の厚さはどこまで通じることか。


機内食に次いで飲み物が運ばれてきた。
私は紅茶を欲して言った。
 「Black Tea」
茶葉の色が黒いことから紅茶は英語でBlack Teaと言う。
しかしそれは欧米系航空会社でしか通じないようだ。
 「阿?」
 「ホンチャ(紅茶)」
 「阿?」
 「Red Tea」
 「・・・。」
どうしても通じない。
 「Hot Tea!」
通じたのか通じなかったのか、無言の内に差し出されたのは温かい中国茶だった。
紅茶の用意は最初から無かったのかどうか分からず仕舞いだったが、その国の料理にはその国の茶が合うということか。
薫り立つジャスミンの湯気に想いを馳せる。

今の会話から、バスの切符すら買えるのかどうか。
久々の一人旅への好奇心に、一抹どころではない不安を抱きながら翼は進む。
まずは一路北京へ。


scott_street63 at 02:24|PermalinkComments(0)TrackBack(0) | 中国