April 09, 2006

RPM-1200


世界は一つではない。
世界を、文化や価値観の違いで分けるとするなら、
世界は人間の数だけ存在する。
人は誰しもその内部に独自の精神世界を展開している。

「RPM−1200」―――係員に通されただだっ広い部屋には
高さ2メートルぐらい、半径4メートルぐらいの円筒形の台が置かれ、
その上には冷たい光を放つ無数の金属片が無秩序に並べられていた。
「台の向こう側に階段がありますので、それを上ってご観覧下さい。」
部屋に入る前に係員が言った通り台の周りに沿って奥まで進むと、
台座に上る階段があった。
台の上には下から見上げた通り、研磨され銀色の冷たい肌を見せる
巨大なボルトやアンテナのようなもの、金型、機械部品など
大小様々な金属片が、所狭しと敷き詰められていた。
階段を上ったことで、私は彼らと目線を合わせる高さまで来た。
これは一体何なんだ…!?

徐々に室内を照らす照明が弱くなり、間もなく暗転した。
束の間の暗闇、そしてまたゆっくりと照明が灯る。
それは正しく太陽が昇るように。
朝が来たのだ。
光は次第に強くなっていく。
同時に、私には目の前に乱立する金属片たちの生命の躍動が見えた。
この冷たく無機質な、非生命的な、恐らくスクラップとして廃棄されたのであろう
夥しい数の金属片が見せる生命感。
光はやがて南中して最も強くこの謎のオブジェと私とを照らし、
また徐々に衰え、やがて消え、そしてまた次の朝を迎える。
私はその場から離れられなかった。
否、離れたくなかったのだ。
私はこの金属片の乱立に街を見出していた。
幾度かの朝と夜を迎えている内に、いつの間にか私はここの住人と化していた。

無機質な大地に突然現れたその都市は、あたかも砂漠の中に浮かぶオアシス。
この乾いた世界に芳醇な生命の水を尽きることなく湛える。
私は惜しみながらその都市を離れ、また次の旅に出た。

KPO(キリンプラザ大阪)にて開催されている榎忠展「その男、榎忠」
(そのおとこ、えのちゅう)。
芸術とは精神世界を目に見える形で外界へ具現化したものだ。
私は、一時、榎忠氏の世界を旅し、飲み込まれた。
彼の、日常の均衡を破壊するアンバランスな世界観を目の当たりにし、
私は底知れない不安に襲われたと同時に、同氏の深い愛情を覚えた。
彼はよほどこの世界を愛しているのだ。
うまく説明はできない。
しかしそうでなければ榎氏の作品群や、人を食ったようなパフォーマンスは
決して産まれるはずがないと思わずにはいられない。

RPM-1200……私もこの世が少し好きになれた気がする。

(今日の写真:コルドバ通り at プエルトイグアス/アルゼンチン)

060408

scott_street63 at 01:25│Comments(0)TrackBack(0) 

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