June 09, 2009

Get Back そして Let it be.


アップル社屋上で開かれた伝説的なライブ、ゲットバックセッション。
ポール=マッカートニーが乖離していくメンバーに原点回帰を訴えかけようと企画したものだったが、結果、メンバー間の溝をさらに深めることとなる。
翌年リリースされた『Let it be』で、ポールは大悟した諦観で以って“ビートルズ”への愛を叫び、同年、ビートルズは解散した。

人はパンのみにて生くるにあらず。
人には二つの生命がある。
一つは肉体のそれであり、もう一つは自我である。
肉体が死ねばもちろん自我も無に帰すのだろうが、
自我を殺して生き永らえる肉体に如何程の価値や意味があろうか。

そもそもこの人生に意味などあるのか?
かの一休上人に言わせれば、人生とは、有漏地より無漏地へ帰る一休みなんだとか。
すなわち人生とは俗世から無に帰すまでのモラトリアムに過ぎないということか。
一休上人の毒舌なリアリズム―――それに抗うが故の凡人たる苦悶。
然しながら、一休みの割に何と耐え忍ぶことの多い世の中だろうか。
土から出でて土に還るだけの人生だと言うのなら、世界は楽しんだもん勝ちということか。

とは言え、快楽を求める魂は肉体の内に閉され不自由を余儀なくされ、そのうえ肉体は世の制約から逃れる術を持たない。
早い話がカネが希望に追い付かない。
そんなワケで、今年のゴールデンウィークはついに何処にも行けなかった。
海外は勿論のこと温泉など国内での旅行に出る事もなかった。
ここ数年この連休を国内で腰を落ち着けていないため、いざこの時を迎えるとどう過ごしていいのか分からず、妙にソワソワとして落ち着かない。
両親は旅行会社のバスツアーで熊野古道の大辺路へ出掛けたが、1,000円高速の大渋滞に巻き込まれ、散々な目に遭ったと言う。
私はと言えば、戒厳令が解かれたばかりのバンコク行きキャンペーン運賃が発表されないかとギリギリまで粘ってみたり、高野山から歩く険しい小辺路を歩こうと計画してみたり、宿坊での宿泊というスピリチュアル体験を夢見てみたりと往生際悪く足掻いてみたものの、最終的に祖父母の墓参り日帰り一人旅に落ち着いた。


祖父母の墓は三重県伊賀市にある。
徳川家康が服部半蔵を起用したことで一躍全国で有名になった、忍者の里でもある。

JR大阪駅から大和路線でひとまず京都府の加茂へ。
加茂でステンレス製ディーゼル列車・キハ120系に乗り換えて、木津川沿いの山裾に設けられた単線の狭い鉄路で5駅。
5駅と言っても一駅ごとの区間がやたら長い。
線路の両脇から伸びて来る木々の枝葉に擦られながら、木津川の猛々しい岩の連なる峡谷を往く。
春には満開の桜並木が、秋には燃えるような紅葉が目を喜ばせてくれる。
今でこそロングシートの素っ気ない列車が走っているが、幼少の頃は宴会列車さながらだった。

当時は奈良駅が電化された関西本線の終点だった(当時はまだ“大和路線”と呼ばれていなかった)。
奈良駅では弁当屋は人で賑わい、プラスチック製の筒に湯とティーバッグを入れただけの簡素な緑茶やゆで卵、冷凍みかん、酒類やつまみを買って亀山行きのキハ35系というボロい車両に大勢の客が乗り込むのだった。
全席クロスシートの窓辺には小さなテーブルが設けられ、天板の下には必ず栓抜きが付いていた。
花見シーズンはもちろん新緑の眩しい5月も、真夏の行楽日にも客車のあちこちで酒盛りが催されたものだった。
たしか各客車にトイレがあったと思うのだが、トイレからの帰りに私はよく酔っ払った客から菓子やつまみを貰っては、戻って来た私を見た母が驚いて謝りに行くのだった。
キハ35系の重苦しいエンジン音、駅構内に響く汽笛、天井で危なっかしく回る扇風機…
そう言えば車内禁煙なんてこともなく、灰皿も各席に付いていたなぁ…なんてことを、ひとり鉄道に揺られては回想に耽って楽しんだ。

梅の郷・月ヶ瀬峡のある月ヶ瀬口駅を過ぎると列車は山間を走る。
両脇から迫る木々、開発が停滞したまま徒に時間が過ぎて行く新興住宅地の石垣、
今や無人駅となってしまった島ヶ原駅を過ぎると、暫くして視界が一気に開けて水田地帯が線路の南側に拡がる。
そして小高い丘の上に聳える天守閣。
かつて藤堂高虎が居城とした白鳳城が見えると、間もなく伊賀上野に到着する。
子供の頃からこの光景が大好きだった。
胸の高鳴る瞬間だった。
三十を過ぎた今でさえ甘い気持ちに包まれる。
そう思えるのは、恐らくここが我が原風景だからなのだろうか。

駅を降り、タクシーで墓地へと向かう。
祖父母の眠る墓は城下町の端、低地を見下ろす丘の上、上野聖ヨハネ教会所有の墓地にある。
墓碑を眼前にして、生きるとは死に行くことなのだと自ずから悟る。
ならば己の道は己の足で突き進むしかない。
一休は言う、雨降らば降れ、風吹かば吹け、と。
Get Back、そしてLet it be。
これからも道に迷った時はこの原風景に帰って来よう。
そして新たな一歩へと―――。


(今日の写真:崑崙山脈@新彊ウイグル自治区/中国)
090608


scott_street63 at 00:17│Comments(0)TrackBack(0) 

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