September 20, 2009

From Suvarnabum Air Port.


旅先から届く手紙に胸が熱くなる。
1枚の絵葉書は異国の地の風をその身に纏っている様でいて、
文面を読む度に遠く離れたその地の香りが脳裏に浮かぶ。

押入れを整理していると6枚の絵葉書が出て来た。
角は折れ曲がり、写真の所々に皺が寄った古い絵葉書―――父からの便りだった。
かつて父は立売堀(いたちぼり)にある貿易商社に勤めていた。
東南アジアを中心に営業していた父は出張の度に長く家を空け、よく幼少の私に絵葉書を送ったものだった。
その文面は、ちゃんと勉強しているかとか、母の言う事をちゃんと聞いているかとか、誕生日に家にいられず済まないなどといった日常的な事柄から始まり、その土地は日本の夏よりも暑くてスコールと呼ばれる大雨が1日に一度降るだとか、食べ物が全て辛くて敵わないだとか、人の肌が黒くて皆汗臭いだとか、当時の私には想像もつかない情報でもって風を吹かせてくれたものだった。
それらの手紙が今の私を作ったとは思わないが、何故だか旅の最中にふと思い出した。

これを書いている今はバンコク・スワンナプーム国際空港のカフェにいる。
早朝3時50分に着陸し、次は7時半のフライトでニュー・デリーへ向かう。
ボーディングは6時55分だから、実質約3時間の待ち時間。
タイ国際空港はシンガポールに次ぐ程の世界のハブ空港でもあるから、深夜・早朝に関わらず荷役が為され、飛行機が飛び立っては降り立ち、客がいる限り免税店や飲食店が24時間営業されている。
妻も免税店を巡ってフル活動中だ。

インドには呼ばれて行くものだと何処かで聞いた。
数年前、ホンコンのゲストハウスで知り合った女の子から絵葉書が届いた。
バラナシの博物館の絵葉書だった。
―――私はいまインドに来てます。
  この国はとても汚くてとても美しくて、最低で最高な国です。―――
この峻烈な風こそまさに呼び声。
この手紙が私への追い風となり、私の足をコルカタに降り立たせたのだと確信している。
コルカタで飲んだチャイの香り、慌しい雑踏、そしてバラナシの乾いた風に混じる牛糞の匂い…
思い出す度に胸を焦がす。
 「もう行く?」
買い物から帰って来た妻が聞いてきた。
彼女の呼び声に席を立つ。
あの風を求めて、今ふたたびインドへ―――。

scott_street63 at 16:53│Comments(0)TrackBack(0)  | インド

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